March 14, 2018
グランデな奈良にて美食のアート&ファンタジィ。
Vol.10 旅する美食|akordu
Text by
Taki Masashi
そのコースはミステリアスに始まった
奈良といえば、悠久の古都。最近では複数の外資系ラグジュアリーホテル進出も噂されるほど、世界的観光地として高く再評価されている。京都からも大阪からも50km弱とアクセスが良くそれでいて、市内いたるところ悠久感がふつふつと掛け流し源泉のように湧き出しており、がらりと趣が変わる。そこに居ると時間は独特の流れ方をする。そんな奈良中心部の一角に、バスク料理の名店があるという。川島 宙(ひろし)オーナーシェフは、かなりユニークだとの評判(もちろん、賞賛)も高い。ランチのテーブルもなかなかとれず、それゆえ秋からトライを続け、キャデラック エスカレードの鼻先を奈良『アコルドゥ』に向けたのは年も明けきり東大寺二月堂のお水取りまで、あとひと月の頃だった。

奈良中心部に踏み入れば、そこは鹿の街。鹿飛び出し注意の標識は街中においてもデフォルトだし、実際路地を曲がったら道のまん中に鹿がいた。奈良奥山ドライブウエイで若草山を登り、山頂駐車場にエスカレードを駐めたら鹿がやってきてリアフェンダー周辺を舐め始めたのには驚いた。ここに来る途中、積雪のあったエリアにまかれていた融雪剤、塩化カルシウムの跳ね上げをめざとく見つけ塩分補給に勤しんでいたようだ。鹿にとって、エスカレード、というかクルマは塩味なのだと、初めて奈良で知った次第だ。

『アコルドゥ』はミステリアスだ。まずその東大寺境内かと勘違いしそうな立地が凄い。道から眺める佇まいはモダンな数寄屋風。一歩踏み入ればスイス、レマン湖畔の瀟洒なオーベルジュのようで、そのギャップが楽しい。案内されテーブルに着けば、マネージャーが青い小箱を手にやってきて、さっとマジシャンのように開けた。一瞬ティファニーのリングかと身構えたが、そこにはカードが。これから出てくる料理のタイトルが、寄席のめくりのように積層している。その日のカードは全8枚。3枚目にはこう印字されていた。「醤酢(ひしほす)に、蒜(ひる)搗(つ)きかてて、鯛(たい)願ふ、我れにな見えそ、水葱(なぎ)の羹(あつもの)」。……万葉集にある長意吉麻呂(ながのおきまろ)の歌である。

蒜(の汁物)より鯛がたべたいなぁ、というこの一首をプロローグに出てきたのは、醤醢につけた鯛の刺身と奈良のほうじ茶に大和肉鶏でとった出汁と椎茸を合わせたスープ(写真 上右)。「汁物はいらない、と言われると出したくなるのが料理人ですから」とのこと。その後に出てきた「冬のタラ 干したトマトと温かい海」(写真 下左)と「冬のアブラナと奈良米のアロス ブルーチーズクリーム」(写真 下右)も素晴らしかった。タラの泡立つような旨味が衣揚げに封じ込められていたし、「遅くとも15秒以内に召し上がり始めてください」といわれたアロス(Arroz:米料理)には、冬から春への移ろいの中にあるほのかな官能があった。

そして「大和豚とわさび菜 甘辛い菊芋」」(写真 下)がコースの大団円。その甘みの重奏が素晴らしく、真打ちの高座のように惚れ惚れしてしまう。食べ終えたなら、フォークとナイフを空の皿に横たえて置くのが普通だが、ここでは何度か左右のセットポジションにシルバーを戻してしまった。なぜそうなるのだろう、と考え思い当たったのは、ひと皿毎の繊細さに、ついつい懐石料理をいただいている気に。和食で箸をそうするように、ついついシルバーも戻したようだ。

最後のカードには「深まる冬とその先にあるもの。」とある。地元が誇る奈良のブランド苺、古都華(ことか)を使ったデザートだったが、もはやそれはコンテンポラリーアートのタイトルである。
『アコルドゥ』の川島宙オーナーシェフは、国内の名店で研鑽を重ねた後、さらなる挑戦のため34歳でスペイン バスクに渡り、名店の扉を叩いた。2008年に、奈良市郊外で古いレンガ造りの変電所をリニューアルしてレストランをオープン。その後現在の地に移転する。川島シェフは旺盛な好奇心と面白がる心持ち、そして本質を見抜く眼力が、そのまま料理に反映されていた。奈良にある、というのも大変ユニーク。しかし奈良を抜きに考えても、こんな店は他にない。気軽にランチに行けるだろう近隣、近畿圏のキャデラックオーナーが実にうらやましい。

ところで、キャデラック エスカレードと奈良の相性の良さには驚いた。東大寺大仏殿の例を挙げるまでもなく、そこは巨大建築物の宝庫であり、東大寺にせよ興福寺にせよ春日大社にせよ、奈良公園にせよとにかく広大。そのグランデ感は、同じく古都保存条例下にある京都、鎌倉にはないもの。そんなグランデな古都に、威風堂々とした佇まいのエスカレードはぴたりとハマる。アイポイントの高さは、しばしば道で遭遇する鹿の早期発見にも有効だった。
『アコルドゥ』を後に、エスカレードを粛々と走らせるうち、辞するときには満タンとなっていた腹がちょっと空き始める。そして距離が離れれば離れるほど、腹が空けば空くほど、本当に『アコルドゥ』は実在するのだろうか、との思いが強くなった。おとぎの国の夢の店。そう、宮沢賢治の注文の多い料理店的なファンタジィを『アコルドゥ』は宿している。それは店というより、川島シェフのファンタジィかも知れないなと、帰路エスカレードのステアリングを握りつつ、そう思った。
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